Metallic decorative film development story

金属調加飾フィルム開発ストーリー

『米国からの引き合い』

1998年、米国のある企業から、自動車ドアミラーのハウジング(カバー)を金属調フィルムで三次元成形したいという要望を受けた。
めっきを使わずにフィルム加飾したいという内容だった。当時、日本ウェーブロック(株)(現 当社)には自動車のドアモールやバンパーモールに使用される平面加飾用のフィルムがあり、その金属調の輝きを三次元的な部品に表現したいというものだった。

当時、自動車のフロントウィンドウやリヤウィンドウの枠に使われる平面加飾用の金属調フィルムには、曲げることが可能なグレードがあった。「これをお客さん側の加工方法に合わせて少し工夫することで成立するのではないか?」と考え、新たな加工用に一部樹脂系の変更を行い、試作品を提供した。
しかし「三次元性は良いが、めっきと比べて白っぽくて金属感がなく、表面の硬さも足りない」。
三次元性能には満足したものの、新たに2つの課題が残る結果となってしまった。

『金属感の克服』

フィルムはめっきと遜色ない状態だが、三次元形状にすると、なぜ白っぽくなるのか?
解明と対策を進めるため、社内で埃をかぶっていた装置を改良して白っぽくなる現象を再現することから始め、「三次元形状に成形しても金属感が低下しない金属は何なのか?」という研究に着手できるようにした。

様々な金属の薄膜材料を入手しては実験、この試行錯誤の繰り返しを経て、入手したある種の金属であれば金属感が維持できるという答えが分かったのは、引き合いから半年後のことだった。

『表面の硬さと成形性の相反』

どのように表面の硬さを上げれば良いのか?
一般的なハードコートを用いれば、三次元形状に成形すると割れてしまう。

硬い素材を探しては三次元形状に成形する日々が続くこととなった。そんな時、とある素材に硬さと成形性が確認されたため、この素材に例の金属の薄膜をつけてみた。しかし、また別の問題が発生することになってしまった。高価なのだ。

金属薄膜を付着する工程で、この素材の厚さが影響して加工費用が上がってしまい、この状態ではお客様の希望する価格帯に全く対応できない。

『コストダウンへの挑戦』

金属薄膜を付着する工程で、薄膜でかつ、延伸性のある素材は何か?
様々な素材を調査し、問い合わせて入手を試み、検証を重ねた。

ある日、ふとしたきっかけで、飲料缶に使われている深絞りできる薄い素材を目にした。この素材を利用することで、金属薄膜を付着する工程の加工単価を格段に下げることに成功。しかし、この素材だけでは表面硬度が得られないため、先に発見した硬さと成形性のある素材を表層に設けることとした。

こうして「表面の硬さの素材」「金属層」という多層構成のMTIA(三次元成形が可能な金属調加飾フィルム)が誕生した。

『社長への説得』

開発したフィルムを使用して社内で作製した三次元サンプルを持ち、当時の社長へ「三次元形状に成形できて、めっき感と表面硬度を維持したものができました」と報告した。

しかし、多層構成であることを説明すると、「社内で2回の工程があると、ロスの増加や品質低下を招き、量産性がない」と突き返された。

それでも諦めず、コスト試算書の提出、試作を重ねた結果報告、カラーバリエーションへの展開などのメリットを繰り返し説明すること5ヶ月間、ついに社長承認を得ることができた。
ここまでに既に2年の歳月が流れていた。

『市場の現実』

三次元成形用の商品としてラインナップすることができたものの、販売から3年間は、目立った売り上げはなかった。冷蔵庫のタッチパネルの枠、自動車のディーラーオプションパーツといったスポット案件が多く、社内の生産は月に1回あるかないかの状態が続いた。

『転機』

状況が一転したのは、「自動車のホイールオーナメントをめっきからフィルム加飾にしたい」という案件だった。

当時この部品は、めっきが剝がれると錆びてしまうという問題があり、なんとしても錆びない方法を見つけたいと模索していたお客様が存在した。そこで我々の三次元成形用のフィルムに声が掛かったわけだ。自動車製造ライン品への初挑戦ということで、細かな外観要求、厳しい規格基準への適合など、今まで経験したことのない量の試験や資料準備が課せられた。

これらをこなして、ようやく量産にたどり着いたのはさらに1年後のことだ。

『めっき代替からの脱却』

現在では、めっき意匠だけではなく、塗装では表現できない深みのあるカラー意匠も揃えてお客様の要望にお応えしながら、高まる要求品質に応えるための改善改良に加え、新しい製品開発への取り組みの日々を送っている。

めっき代替や塗装代替という位置づけの商品ではなく、機能性を持たせなくては単純な価格競争に巻き込まれてしまうという危機感をもっているからだ。

近年では自動車や家電のような工業製品に様々なセンサーが付くため、特定波長の電磁波を阻害しない加飾素材が欲しいという声も増えており、わたしたちはそれらの製品開発に取り組んでいる。

「世界一の品質とラインナップでお客様に喜んでもらえること」を目指して。

『旅行用スーツケースでの経験』
~カラーバリエーション表現の獲得~

2000年当時より高品位なアルミのアタッシュケースを、金属調加飾フィルムの使用により軽量なプラスチックで表現できることが国内市場より評価されていた中、2007年に旅行用スーツケースの表層材としてメタリック感を持つ金属調意匠企画の話が国内の顧客よりあった。アタッシュケースより大型で、飛行機への積載重量に配慮する必要があることから、金属素材の採用が困難なアイテムだったが、フィルムが活用できれば、重量の制約をクリアしつつ、金属意匠による差別化を狙える。しかし企画時点で、同形状の6色展開が既に決まっており、取り組み開始と同時に金属調+カラー表現のトライ・アンド・エラーへ突入した。加工方法や着色素材の設計に加え、カバンとしての耐衝撃性をはじめとした製品検査項目を全てクリアする必要があった。約1年の開発期間を経て全色ラインナップの生産体制を構築。同時に、金属色のコントロール技術を獲得し、後の自動車部材への展開に向け強力な武器を獲得することができた。

『光線透過部品を通しての成長』
~品質管理の強化~

ガソリン車から電気自動車(EV)への移行が本格化するにつれ、LEDバックライティングを搭載した車両部品の企画が増えた。背面に透明な樹脂を設定し、裏側からLEDを点灯させることで日中は金属意匠、夜間は発光意匠を表現する部品だ。背面の基材を無色透明とすることで、これまでも小型部品には対応してきてはいたが、2016年頃には自動車メーカーを象徴する車両外装のエンブレムまでもが、光線透過性能を有するコンセプトを持って考案され始めた。これらの部品は自動車の顔とも呼べるアイテムであり、ひときわ厳しい表面品質管理が求められた。微細な金属層の欠落ですら指摘され、工場関係者総出で原因を調査した結果、特定のガイドロール接触時にわずかな擦れが存在していることを発見。基材搬送に最適なロール表面を検証・対策し、指摘されていた細かい金属層の欠落を劇的に改善することができた。この効果を関係する対象設備へも横展開し、対策効果をより盤石なものとすることができた。

『変わりゆく光線透過需要への対応』
~透過色のコントロール~

光線透過部材が広く認知され始めたある時、顧客から透過光色のチューニング要望を受けた。金属層を介してLED光源を発光させた際、光源本体の発色から色相がずれてしまう問題を解決したいというものだ。これに対し、透過色をコントロールする方法を立案する必要が生じた。 

基材ごとの透過色を全て把握した後、ずれた色相に応じてフィルム裏面にずれと対方向の色成分を配置することで透過色のコントロールに成功した。金属層裏面での改良なので、LED消灯時の金属意匠を変えずに透過色の管理が可能となり、要望に応えることができた。

『欧州での取り組みと新たな課題』
~ミリ波透過性能の表現~

2019年になると欧州の子会社に、ミリ波と呼ばれる周波数帯域の電磁波透過性能に関する問い合わせがくるようになった。「車間距離を探知するレーダーセンサーをフロントエンブレム部品の裏に配置したい。従来のめっき製ではミリ波を遮蔽してしまうため、フィルムが活用できないか?」というものだった。金属調加飾フィルムでは、金属層の状態によって、ミリ波透過性能の表現は可能だったものの、フィルムを熱加工する後工程も想定した上で、金属層管理を実施することにはまだ課題があった。そこで、金属原子の状態や、層厚別の透過性能を細かく検証し、ミリ波透過性が安定して再現できる金属層状態の把握と、製造工程への反映を行った。さらにフィルム形状での性能検証方法を確立し、ミリ波透過性能を表現した金属調フィルムの提供を可能としている。

2023年現在、世界中が急速に変化する中にあって、自動車産業を取り巻く環境もまた、目まぐるしい変化を続けています。CASE(接続・自動運転・シェアリング・電動化)の台頭、MaaS(移動手段サービスの提供)ビジネスモデル、ICE(内燃機関)からEVや燃料電池車(FCV)への移り変わり、温室効果ガス(GHG)削減を主としたESG(環境・社会・企業統治)意識の高まり。これらを背景に、世界中の関係者が最適な姿を模索している状況が眼前に広がる中、我々WATが持つ長所をその潮流にいかに乗せていくか。これまでにも増して、スピード感と柔軟性、そしてチームとしての一体感を持って前進してまいります。